2025年2月、オリジナルエラストマーグリップ『GMASTER』でゴルフ市場に参入した佐々木製作所(茨城県北茨城市)。自動車・産業部品メーカーとして50年以上培った射出成形技術を武器に、新設した「SASAKI FACTORY」からスタートした同社の挑戦は、この1年で大きく質を変え始めた。初年度は製品の認知拡大とOEM開拓を並行しながら基盤を整備。そして2026年、同社はジャパンゴルフフェアへ初出展を果たした。単なる〝新規参入メーカー〟では終わらない。今、佐々木製作所はゴルフ業界の中で「どこを目指しているのか」。
自社ブランド確立への挑戦から、業界インフラ企業へ――
参入1年で見えた現実グリップメーカーの〝壁〟はブランドではなく供給構造
グリップ市場は成熟産業と言われる。しかし実態は、海外生産・外注依存・OEM供給という複雑な分業構造の上に成り立つ産業でもある。
参入から1年、佐々木謙彦社長が感じたのはブランド力ではなく〝生産構造〟の壁だった。佐々木社長がこう語る。
「ゴルフ業界ってブランドの世界に見えますけど、実際は〝どこで作っているか分からない〟製品も多いんです。自社工場を持つメーカーは意外と少ない。だからこそ、我々の存在価値が出ると思いました」
同社は国内一貫生産を掲げ、材料開発から成形・ロゴ加工まで自社管理。ロゴの立体浮き出し特殊加工や即日サンプル対応など、小ロット・短納期を可能にする仕組みを整えてきた。
その結果、1年目は〝販売〟よりも〝相談〟が増えたという。
「メーカーから〝こういうこと出来ますか〟という問い合わせが急に増えました。ブランドを作る会社というより、技術の相談窓口みたいな役割になってきています」
OEM拡大の狙い競合ではなく〝共存〟という選択
同社は当初からOEMを重要戦略に据えていたが、現在はさらに比重を高めている。背景には、国内グリップ生産能力の不足がある。
「生産性や品質を向上させるにはどうしたら良いか?というケースは多いです。そこを補える会社になりたい。うちはブランドを奪うつもりはなくて、〝作る機能〟を提供する立場です」
グリップだけでなく、エンドキャップやノベルティ、異業種向けグリップなどの相談も増加。ゴルフメーカーに限らずスポーツ・アパレル・イベント用途へも広がり始めている。
「自社ブランドだけで勝負すると、小さい会社は価格競争に入ってしまう。でも製造機能で価値を出せば、業界全体に必要とされる存在になれると思っています」
素材開発の深化〝滑らない〟から〝再現できる〟へ

製品面では、ミッドサイズモデルを開発中。単なるサイズ追加ではなく、材料自体を刷新した。
「滑らないグリップは作れます。滑りにくいと耐久性が悪かったり、耐久性を上げると硬くてフィーリングが悪くなる。触感と摩擦のバランスが一番難しかった」
新材料は耐久性と摩擦力を両立。さらに重量バランスを保ち、クラフトマンが装着しやすい設計を維持した。
「太くするとクラブバランスが崩れやすいんですが、それを出さないのが設計のポイントです。プレイヤーだけじゃなく工房の作業性も製品性能だと思っています」
同社が強調するのはプレー性能ではなく〝再現性〟で、
「ゴルフは同じ動きを繰り返すスポーツです。だから握り心地が毎回同じになることが重要。その精度を材料と成形で作り込んでいます」
丸グリップという提案〝フェースを意識し過ぎる〟問題へのアプローチ
同社がフェアで展示するもう一つの試作が、完全円形状のパター用グリップだ。一般的なフラット面を排した設計で、フェース向きの過度な意識を減らす狙いがある。佐々木社長はこう説明する。
「面があると〝合わせにいく動き〟が出やすい。丸にするとスッと上げられて、ストロークが自然になります」
ツアー現場でも丸系グリップを練習用に使う例は多いという。緊張した時に手が動かなくなってしまう人が多いが、スムースに動くことで、本来のストロークが保たれる。
重量は約80gから軽量化を検討中で、独自のノウハウにより、重量の最適化を目指している。
グリップメーカーから〝練習環境メーカー〟へ

現在、同社はパッティング練習器具も開発中。新作はライ角・ロフト角のブレを減らし身体幅や振り幅を一定化させるトレーニングツールで、プロからの評価も得ているという。
グリップを作っていると、プロゴルファーやプロコーチから「こんな練習器具ができないか?」という相談を受けることも多いという。
単一製品メーカーではなく、プロ・アマ問わず、プレーの再現性を高める道具を総合的に提供する構想だ。
ジャパンゴルフフェア出展の意味〝売る場〟ではなく〝知ってもらう場〟

今回の初出展の目的は受注ではない。
「一般の方に販売するイベントというより、業界の人に知ってもらうための出展です。1年でここまで出来るという信頼を見てもらいたかったのです」
OEM相談、共同開発、材料評価――。商談の質は確実に変わってきているという。
最後に、同社の将来像について佐々木社長はこう締めくくった。

「大手と同じことをやっても勝てません。だから〝他社が困ったとき最初に相談される会社〟になりたい。ブランドメーカーではなく、ゴルフ産業を裏側から支える存在です」
グリップメーカーでも、OEM工場でもない。その中間に位置する新しい役割。〝開発型製造パートナー〟。
参入1年。佐々木製作所は、製品ではなくポジションを作り始めている。
