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アーティザンの挑戦 ~セカンドステップの密着ルポ~

インフィニット

2020/04/21

ツアークオリティーを量産へ「 トレランスは±0.1度しか認めない」

「アーティザンゴルフ」―。昨年6月、日本に上陸した米テキサス州フォートワースを拠点にしたパーツメーカーだ。世界最高峰のゴルフの舞台である米PGAツアーのアスリート達が全幅の信頼を寄せるのが、「アーティザンゴルフ」の研磨師であるマイク・テーラー。彼が立ち上げたのが「アーティザンゴルフ」だ。 

日本上陸以前に、パトリック・リードが「アーティザン」のウエッジでPGAツアーを勝利。それも注目され始めたエポックだが、そもそもマイクはナイキゴルフ時代、プロ担当のクラフトマンであり研磨職人だった。当時、タイガー・ウッズに「もうマイク以外にクラブは作らせない」と言わしめた人物だ。そのマイクの研磨はツアークオリティーと呼ぶに相応しく、アスリートが求める形状寸法、ロフト・ライ角など寸分も狂いがない。故に、マイクに任せればアスリートはバックアップクラブに不安がないのだ。 

そのクオリティーをアスリートだけではなく、多くのゴルファーにサプライするというのが「アーティザンゴルフ」の挑戦となる。そこで、「アーティザンの挑戦 セカンドステップの密着ルポ」と銘打ち、第一回目は「ツアークオリティーを量産へ」と題して、量産工場選定へのこだわりを追う。

「自分が削ったものをそのまま量産したい」


現在、日本市場で主軸となっているのが「アーティザン ウエッジシリーズ」。ツアーフィードバックから生まれた独特な5つのソール形状が特徴で、工房流通を中心に多くのゴルファーに愛用されている。一方、知る人ぞ知る「マイク・テーラー プレミアム グラインド」(MTPG)。ヘッド一つ3倍以上の価格だが、ツアークオリティーの寸法公差、そして何よりもマイク自身が手を加えたプロダクトだ。 

そのMTPGレベルを量産にも落とし込むのが今回の目的。そのためには、マイクが求める寸法公差、スペック公差を実現できる工場の選定が必要となる。日本で「アーティザンゴルフ」のサポートを行うインフィニット合同会社の秋山弘充氏がマイクのこだわりを説明する。

「ツアークオリティーというのは、希望ロフト角が58度なら58 度。58.1度でもなければ57.9度でもない。それがマイクが求めるクオリティーです」 

世界のトップ選手が求めるのは、寸分狂わない寸法精度。そして全く同じ2本目のバックアップクラブを作ることができる技術。それを量産で行う。それが「アーティザン」の挑戦でもある。

そこで問題になるのは製造公差。量産のゴルフクラブで度々話題となるが、マイクが求めるレベルの公差を具現化した量産品は稀だといってよいだろう。それ故、挑戦なのだ。マイクのこだわりは尋常ではない。秋山氏によれば、

「量産品のロフト・ライ角の公差は現在± 0.75度。理想は± 0.5度。しかし、マイクが求めるレベルは量産品でも± 0.1度です。つまり、すべての数値でマイクは自分が削ったものと同じクオリティーの商品を量産したい。そうでなければ、マイクは量産する意味がないと思っていますよ」 

マイクの言うツアークオリティーのプロダクトと同じ精度を持った量産品は現実的なのか?

求める制度は量産でも±o.1度

鍛造精度だけではない ツアー品質を実現する条件


量産までの問題は様々だ。例えば、ゴルフ規則にあるスコアライン。ツアー用は一つ一つ規制限度まで追い込んである。しかし、量産は製造公差の問題で、はるかに低いレベルに設計値を設定する。それを量産品でも実現する。そのための工場選定は非常に困難を極める。 

工場選定のポイントは、
「まず、鍛造後の工程です。手研磨なのか、機械加工なのか。とはいえ、機械加工だからといって即合格というわけではありません。寸法精度が高く、ロフト・ライ角は、レベルの高い工場なら問題ないでしょう。ただ、ホーゼルの穴開けはチャッキング一つで変わる。それも量産だから公差が生じる。一方で、3つ、4つの複数の金型で鍛造工程を行う工場なら、その後の加工が手研磨でも、人の手は極力介在しない。チャッキングの問題は同じだとしても、トレランスという意味では同じだと思います」 

機械加工なのか、複数金型と手研磨なのか。マイクが求めるレベルを可能にするには、量産といえどもパーツメーカーの少量多品種に対応できる工場は世界にも数えるほどしかない。それに製造コストも青天井ではない。現行の「アーティザン ウエッジシリーズ」のヘッド売価は2万4000円。自ずと次期プロダクトも市場を鑑みれば、製造原価は決まってくる。 

条件はもう一つある。工場の生産体制だ。「アーティザン」の量産の場合、あくまでもプロトタイプはマイクが削ったもの。それをスキャンし、3DCADデータを作成し、金型製作のCAMデータも必要となる。つまり、鍛造から仕上げまでの工場より、設計から仕上げまで、一つの工場の中で一貫生産できる工場が理想なのだ。

「CAD、CAM、金型製作から鍛造、仕上げまで、一貫生産だからこそ、問題が発生しても解決できる。そんな工場での製造が理想ですね」 

工場の選定は困難を極めている。世界広しといえども、マイクの目に適う精度、製造体制を有する工場は2カ所か3カ所だろう。果たして、条件を満たす工場は見つかるのか?

設計から仕上げまでの一貫生産が理想

アーティザンの知られざる秘密


秘密1
現在、アーティザンで採用している機械加工後のアズミルドヘッドは、バレル加工前で設計重量+3〜4gの削り代が残されているドロップ。それがツアー用として採用されている。それを各アスリートに合わせて研磨するため、数値はピッタリとなる。

秘密2
アーティザンではフェースプロファイルを各選手毎、30項目以上のスペックで管理している。フェースプログレッション、リーディングエッジからファーストスコアラインまでの距離など、アドレス時の見た目のイメージを数値管理。それがもとになってバックアップクラブも制作される。


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