エムズが展開中のキャディウェアブランド『Misa』がゴルフ場に広がっている。既に採用ゴルフ場は約20場。商談中のゴルフ場や新規の問い合わせも多数ある。『ミーサ』の何がゴルフ場を突き動かすのか?その理由を総力取材した。
『ミーサ』誕生秘話
今年、創業42年を迎えるエムズの主力事業はユニフォームの企画・生産だ。大手外食チェーンや老舗ホテルなど、多くの企業のユニフォームを手がけている。最大の強みはデザイナーからパタンナー、生産管理部門、そして国内自社縫製工場を保有しており、企画から生産まで一気通貫で行える点だ。
そんな同社が注目したのがキャディ服だった。従来のキャディ服は主に百貨店からオーダーメイドで購入されており、それがゴルフ場のステータスだった。ところがバブル時代は1セット約8万円だった取引が、現在では1セット2~4万円程度。セルフプレー化やキャディ不足も影響し、次第にキャディ服専門メーカーが撤退。百貨店も取り扱いを縮小していった。様々なデザインや機能性のあるゴルフウェアが登場する一方、キャディ服だけは時代から取り残されていた。同社はその状況に活路を見出す。企業のユニフォーム作りのノウハウを活かし、デザイン性と機能性のあるキャディ服で業界参入を決意した。
同社が考えたのは「キャディ業=おもてなし業」だということ。その言葉一つでゴルファーを一日楽しい気分にもでき、そのゴルフ場に再訪したいと思わせられる。松山英樹などのキャディを務めた、ツアープロキャディの進藤大典氏は以前本誌でこう語っている。
「クラブが14本あるように、スイング、風、ライン、プレーのリズムなど、キャディさんによって教えてくれるポイントがそれぞれ違う。つまり自分のことを客観的に見てくれる唯一の相談相手です。もし良いキャディさんに出会えた日は、その日のゴルフが段違いに良くなるし、例えスコアが悪くても、今日は良い日だったなって思えるんですよね」
言わばキャディはゴルフ場の顔であるということ。そのために同社が掲げたブランドのコンセプトは「キャディのモチベーションを上げられるデザイン」と、「重労働を軽減できる機能性」だった。同社の王列社長はこう語る。
「今ゴルフ場はキャディが不足しています。ですが制服によってキャディが憧れの職業になれば、新たな人材確保に繋がり、ゴルフ場に好循環をもたらすことができると考えました」
そして本格的なキャディウェアブランドのプロジェクトがスタートする。同社のデザイナーで、商品本部長の谷川円執行役員は、
「事前に何回もゴルフ場に行き、現役キャディさんのお話を聞きました。重労働が楽になる生地の厚さや通気性、ストレッチ性、多くの持ち物を出し入れしやすいポケットの機能の必要性を感じました。それと制服を通してキャディという職業を際立たせ、ホテルのコンシェルジュのような華やかなイメージに変えたいと思ったのです」
と語る。その結果誕生したのが『ミーサ』である。そしてコースを上から見た時に花のように見えることから、『ミーサ』の象徴的なブランド柄である、『コースフラワー』が生まれる。まさにキャディを花のように華やかに見せられるブランドが生まれたのである。
広がる『ミーサ』の輪
そして『ミーサ』は徐々にゴルフ場に認知されていく。ザ・カントリークラブ・ジャパン(千葉県)キャディ部の大河妙子課長は『ミーサ』の導入理由についてこう語る。
「当ゴルフ場は20代のキャディが一番多く、若い世代に似合う色やデザインのキャディ服にしたいと思っていました。『ミーサ』は女性のテンションが上がるデザインが多く、スタイルも良く見えるのでキャディからも非常に好評です」
デザインの良さについては、ゴールド佐野カントリークラブ(栃木県)の外崎雄大氏も口を揃える。
「元々系列のゴールド栃木でもエムズさんの制服を採用しており、問い合わせしたのがきっかけです。デザインも今風で可愛らしく、フレッシュなイメージだったのが導入理由です」
また大栄カントリー倶楽部(千葉県)のキャディマスター・平野恵子さんも、
「一番の決め手はやはりデザインです。ピンクという優しい色にあのカモフラージュというのは斬新で、ほかのゴルフ場では見たことがありません。きっとキャディが明るく見えるのではないかなと思ったのが大きかったです」
と語る。また東京国際ゴルフクラブ(都内町田市)の廣木昌人氏も、
「当ゴルフ場は若いキャディも多く、『これからのキャディが可愛くて着てみたいと思うキャディ服を作ろう』という社長の考えの元、制服を探していました。そんな時に勤務するキャディから『ミーサ』のことを聞き問い合わせしたのがきっかけです。デザイン画や既存のサンプルを見たところ、今までにないデザインと斜めのラインで、キャディからも『是非着てみたい』という声が上がったことで採用を決めました」
以上のように、『ミーサ』のデザインが導入の決め手になったという声が多い。さらに機能性についても評価されており、前出のザ・カントリークラブ・ジャパンの大河課長はこう話す。
「夏は年々暑くなっているので、キャディ達の負担をできるだけ減らしたいと思っていました。その点『ミーサ』は以前の制服よりも涼しい素材で速乾性もあり、何よりも汗染みにならないのでキャディも喜んでくれています」
猛暑列島は待ったなしの様相で、夏のゴルフ場は熱中症の危険性が高まっている。ゴルフ場にとってキャディの真夏の勤務環境を改善するのは喫緊の課題で、大河課長の言葉は、キャディ服がそこに寄与できる可能性を含んでいる。
その後も『ミーサ』は袖ヶ浦CC、大分東急GC、札幌GC、小淵沢CCなど、次々と採用ゴルフ場を増やしていく。
ゴルフ場を助けるエムズの営業力
『ミーサ』が広がった背景には同社の対応力の高さも関係している。前述のようにセルフプレーが主流の中、キャディの人材も不足している。その状況の中でいつ必要になるかも分からないキャディ服を大量にストックしておくのはゴルフ場にとっても負担が大きい。そういった在庫問題を小ロット生産で対応できるのがエムズの強みでもある。その点について、前出の東京国際GCの廣木氏は、
「今までのメーカーは多めのロット単位でしか対応しておらず、サイズも限定されていました。一方、エムズさんは追加ロット10着単位も了承いただき、サイズも豊富に用意してくれました」
と小ロット対応のメリットを語る。さらに、
「当ゴルフ場はシャトレーゼグループなのですが、シャトレーゼならではのこだわりを入れたいという要望にも応えてくれました。打ち合わせで複数回コースに足を運んでくれて、急な変更にも骨を折ってくれたのは助かりました。今後系列の6コースでもエムズさんで統一していく予定でいます」
と営業マンの対応力を評価する。また、ゴールド佐野CCの外崎氏は納期の早さも口にする。
「他のキャディ服メーカーはオーダーメイドが基本で納品まで半年かかります。ロット数も多いので新しいキャディ用に在庫を抱えないといけませんが、実際にキャディはそんなに入りません。その点、エムズさんは既製品をベースに細かい要望にも応えてくれて、短期間で納品されました。
営業の方も熱心でレスポンスも早いので、マスター室の制服やシューズも一緒にお願いしたところ翌日には発送してくれました。また、あるスタッフからズボンだけ少し短いという意見が出た際にも、すぐにサイズ違いを送ってくれるなど柔軟な対応が良かったです」
さらにザ・カントリークラブ・ジャパンの大河課長は『ミーサ』の一番の決め手についてこんなエピソードを話す。
「これまでは100着単位でしか発注できなかったのですが、エムズさんの場合は追加ロット10着から対応してもらえたのは助かりました。ですがそれ以上に決め手になったのは営業の方の人柄でした。
実は制服を変えるに当たって、代表のキャディ4名による制服委員会を立ち上げたんです。エムズさんはそこにも何度も参加してくれて、ポケットの微妙な位置や大きさ、強度の変更など、細かい要望にも向き合ってくれました。アットホームで親しみやすい雰囲気を作ってくれたので、キャディ達も話しやすく直接要望を伝えられたのも良かったです」
小ロット対応や短納期、そして豊富な要望に応えるセミオーダーへの満足感は、企画から生産まで一貫して行える同社の強みがもたらした。そして柔軟な営業マン力は長年のユニフォーム作りで培った経験の成せる業だと言える。
キャディのモチベーションアップと新たな人材確保に繋がる『ミーサ』
そして『ミーサ』は導入したゴルフ場のキャディのモチベーションも変えていく。涼仙ゴルフ倶楽部(三重県)の扇谷純支配人は、
「ユニフォームを変えることで、キャディたちが働きやすくなればとは考えていましたが、ユニフォームによってこれだけモチベーションが上がるというのが、今回初めて分かりました。私たちはキャディをグリーンキャスターと呼んでいますが、彼らキャスターのモチベーションが上がれば、その分、お客様に対する接客態度も変わってきます。制服の役割というのを今回すごく感じました。今後は新しいユニフォームを採用のPRにも使っていきます」
と語る。これに関して、『ミーサ』が採用に繋がった事例もある。
「4月から勤務する新卒採用のキャディが事前に何社かゴルフ場を見学して、制服が可愛かったからという理由で当ゴルフ場を志望したと言ってくれました」(ザ・カントリークラブ・ジャパン 大河妙子課長)
これはまさに『ミーサ』がキャディの採用に繋がった好例だ。『ミーサ』の広がりは、現場の志気向上と人材確保に繋がっている。
「ミーサ×クアルトユナイテッド」でキャディウェアを憧れの制服に
さらに同社はキャディの人材確保の一環として、ゴルフアパレルブランドの『Cuartounited』(クアルトユナイテッド)とコラボした。同ブランドはカジュアルをベースにビーチカルチャーやストリートのテイストを加えたブランドで、若年層から支持されている。今回のコラボアイテムは、「ポジティブで元気になれる洋服」というテーマで、ポップでフレッシュなデザインのキャディウェアに仕上がっている。
また、フリルや花柄といったフェミニンなテイストを、モノトーンベースで仕上げたシンプルで上質なデザインも揃えており、幅広い年齢層が働くゴルフ場でも活躍できるウェアになっている。両社のコラボによって一段とキャディウェアが華やかになり、若年層のキャディ志望者が増えそうだ。
エムズとSDGs
昨今SDGsが叫ばれているが、エムズは以前から積極的にSDGsに取り組んできた。その象徴と言えるのが、2011年に起きた東日本大震災である。同社は宮城県の南三陸に縫製工場と物流倉庫を持っており、震災によって大打撃を受けた。営業再開の目途が立たない状況が続いていたが、地元企業として逸早く行動に出る。
まず、取引先のローソンの協力で、同社の倉庫内にわずか2週間で仮設の店舗をオープン。続いて、自社の敷地を掘って井戸を作り、近隣住民に水を提供する一方、物流倉庫を改造して社員向けの仮設住宅を7部屋作る。さらに、倉庫の空きスペースに地元の飲食店を集めた「南三陸エムズ食堂」をオープン。前出の王社長自らも厨房に立ち、地元住民に食料を無償提供した。
同社のSDGsに取り組む姿勢は『ミーサ』にも表れている。具体的には『ミーサ』の売り上げの一部を、チャイルド&アニマル チャリティー協会(児童、犬猫の救済団体)に寄付していくという活動だ。これによって『ミーサ』を導入したゴルフ場も自動的にSDGsに参加していることにもなる。
さらに、働く女性の職場環境をサポートするため、フェムテックブランド「Hogara」と連携。ゴルフ場でトイレに行くことが難しいキャディに向けて、吸水ショーツや、女性のライフステージに特化した福利厚生サービス「HogaLife Support」を紹介していく。
それだけではない。進藤大典氏が毎年主催する「進藤大典ジュニアトーナメント」にも協賛。ジュニアゴルファーを応援している。
『ミーサ』はこれまで裏方の存在だったキャディに光を当てた。そして今後はキャディのみならず、フロント、レストラン、コース管理など、ゴルフ場で働くあらゆるスタッフをユニフォームで彩っていく。
「ゴルフ場が憧れの職場へ」。エムズによって近い未来、そんな日が来るかもしれない。