2024クラブ・ボール

TaylorMade Qi10 Driver & TP5 Golf Ball

テーラーメイド

2024/04/03

2022年に発売した初代『ステルス』をカーボンウッドと言い切ったところから、テーラーメイドの開発の方向性が明確になってきている。

そして2024年の新製品『Qi10』は、カーボンウッド3世代目だ。毎年、確実に「今を超える」製品を作り出す原動力は何なのか、テーラーメイドはどこに向かおうとしているのか?アジアプロダクトディレクターの髙橋伸忠氏に聞いてみた。

今回の新製品は『Qi 10』という名前ですが、明らかに『ステルス』の進化系なのに、なぜ名前を変える必要があったのか?

「松尾さんもご承知のように、ステルスという言葉には『隠れた』とか『密かに』という意味があります」

レーダーに発見されないステルス戦闘機と同じですね。

「はい。ドライバー開発がチタンフェイスに特化していく中で我々は、カーボン素材の可能性も密かに追求していました。その結果、フェイス部分をカーボンにすると同サイズのチタンフェイスよりも20g軽量化できることがわかった。この事実は開発者にとって、開発の可能性が格段に広がることを意味しています。そこで初代『ステルス』はカーボンフェイスの可能性を、昨年発売した『ステルス2』はボディにもカーボンをより多く使用して『飛距離と優しさ』を追求する方向に進みました。ここまで来ればもう『密かに』開発したものではなく、『ベールを脱いだカーボンウッド』という意味で新しい名前を考えたのです。

新製品は、カーボンの可能性をヘッドの慣性モーメントに注力して開発したことから『Qi10』と命名しましたが、QはQuest(探求する)でiはInertia(Moment of Inertia=慣性モーメント=MOI)。そして10は10K(10000)です。ヘッドの上下・左右のMOI値の合計が1万g・cm2を超えるもの、という意味です」

なるほど。MOIは、ヘッド外殻部の質量が大きいほどヘッドがブレにくくなるという開発の指標ですが、1万g・cm2超えるとどんなメリットがあるのでしょうか?

「ゴルフクラブには様々なルール上の規制がありますが、ヘッドのMOI値がトウ・ヒール方向では5900g・cm2を超えてはならないという規則があります。ところが上下方向のMOIには規制がなかった。そこで重量配分を見直して、上下方向のMOIを4100g・cm2以上を目指しました。上下左右で1万です。

上下方向の安定性が増すことで、スピン量と打出し角がコントロールできることに加え、スクエアにインパクトを迎えた時のエネルギーの伝達効率も高まった。つまり、スウィートエリアが拡大することで、芯を外したショットでもヘッドが動きにくく、ミスに強いやさしいヘッドが開発できた。このあたりが大きなメリットだと思います」

『ステルス2』の設計をそのまま引き継いだ部分はどこですか?

「変わらない部分は3種類のヘッドを用意したことと、460cm3というヘッドサイズ、それから60層のカーボンで成型されたフェイスの積層数ぐらいでしょうか。それ以外は大小様々な進化をしています」

様々な進化とは具体的にどの部分で、その狙いは?

「まず、ヘッドのトウ・ヒール方向のMOIを上げるには、フェイス部分の重量をより周辺に配分することが必要になります。『ステルス』『ステルス2』、そして『Qi10』のチタンフレームを見比べてください。微妙な肉厚の変化がわかると思います。フェイスの大きさに大きな変化はありませんが、トウ方向にフレームが少し張り出して、その分『MAX』のヘッドは後方に8㎜伸ばすことができました。

実は、ヘッドの幅はヘッドの奥行きと同じかそれより大きくする必要があります。ヘッドの一番深いところに重量を配置すれば、上下のMOIが大きくなるわけですが、逆にMOIが大きくなると操作がしにくくなり、スクエアにインパクトができない場合はミスショットになる。つまり、単純にMOIが『大きい=やさしい』とはならないのです。それを『=』にするために、更なる計算された重量配分が必要になる。そこをしっかり抑えた上で、目標値を達成するための改良をしたのです」

3種類の異なるヘッド

〈Qi10〉 シリーズ(左から「Qi10」 「Qi10 LS」 「Qi10 MAX」)

少し難解なので、もうちょっと噛み砕いて説明してもらえますか。

「わかりました(笑)。まず、3つの異なるヘッドは、ヘッドサイズが460cm3で同じですが、MOI値は全て変えてあります。『MAX』はその名の通り、MOIが10Kを超えるもので、ドライバーとすれば最大級のMOI値を持っています。

MOIが最大ということは、その分ヘッドの操作性は難しくなるのが普通ですよね。逆の見方をすれば、MOIが最大のヘッドでスクエアインパクトをしやすくできれば、『ステルス2』が掲げた『飛距離性能と寛容性を更なる次元へ』を実現できる。そのためには目的に沿った形で最適な重量配分をする必要があり、性格が異なる3つのヘッドを開発しました。具体的にはヘッド形状と、外付けのバックウエイトの位置と重さによって3タイプに分けたのです。『MAX』と『LS』(ロースピン)は対照的な重量配分とヘッドデザインで、ノーマルの『Qi10』はその中間です。

ヘッド体積が同じでデザインが異なるのは、チタンで作られたフレームの構造設計が明確に異なっているからです。『MAX』は上から見たヘッドの投影面積が大きいけど、ヘッドの厚さは薄く、反対に『LS』の投影面積は小さいけれどヘッドは厚くしてあります。重心位置も『MAX』は重心深度が最も深く、逆に『LS』は最も浅く低いのです」

なるほど。カーボンの範囲を増やしたことで軽量化でき、設計自由度が高まった。その自由度は、重心位置の工夫に活かされたと。

「おっしゃるとおりです。カーボン素材をあらゆるところに採用することで重量面の余裕を生み出した。それによって実現した技術です。

『ステルス2』の時は3つの異なるヘッドを用意しましたが、『ステルスプラス』や『ステルスHD』という名前のために、設計の意図がわかりにくかったかもしれません。だけど『Qi10』では最大のMOIが『MAX』で、『Qi10LS』はMOIが最高レベルながらロースピンで、ヘッドスピードが速くスピンを抑えたいゴルファー向けだと、違いが明確になりました」

なるほど。それから3タイプのヘッドはソールデザインも異なっています。空気抵抗を考慮したデザインに見えますが?

「そのとおりです。サイズが同じで投影面積が異なるということは、ヘッドごとに空気抵抗値が異なるということです。ヘッドは、トップスウィングの位置から回転しながら空気中を速いスピードで突き進み、インパクトを迎える。当然、それなりの空気抵抗を受けますよね。

空気中を進むヘッドは、フェイス部分からヘッドを包み込む形で空気が後方へ流れますが、流線型でないものは、ヘッドのクラウン部とソール部分を流れる空気が一部剥離し、乱流を生み出します。これが抗力となってヘッドスピードや回転する力に影響を与えてしまうのです。そこで、クラウン部分は滑らかな曲線で、ソールには乱流の発生を抑えつつ空気の流れがスムースに行えるような仕組みをデザインに落とし込んだ。見てください。『LS』のソールはそれが明確に出てますよね」

船底の形と似てますね。

「そうなんです。ヨットにはセンターボードという船底から突き出た一枚のボードがあり、これが水の流れを制御して、船が安定して進める仕掛けになっています。『LS』にはこのセンターボードの役割を持たせたデザインを取り入れた。スライド式のウエイト調整機能を搭載しながらも、ソール形状を改良することでエアロダイナミック効果を高める工夫をしています。」

クラブとボールの関係性

このような研究は航空宇宙産業からのものと見えますが、そのような研究・開発も行なっている?

「そうですね。松尾さんには以前もご説明しましたが、開発にはそれぞれの分野の専門家が、今より良いものを作るために日々研究を重ねていて、開発の方向やスピードはそれぞれ異なります。『ステルス』から始まったカーボン素材や製法も、航空宇宙産業などで使われている最新の技術を駆使できるスタッフが参加してます。航空機メーカーなどと協力して、ヘッドの動きを風洞実験やエアロダイナミクス(空力)のシミュレーションで研究。理想的なヘッド形状を追求しています。

しかも、理想の重量配分の邪魔をする溶接をしないで良いので、すべて樹脂による高度な接着技術を用いてヘッドを整形しています。インパクト衝突はとても激しいじゃないですか。でも耐久性に優れたヘッドは、衝突によるヘッドからボールへのエネルギー伝達効率を高められ、安定した飛距離と方向性が実現できる。どうですか? 以上の説明でカーボンウッドが確実に進化していることがわかりますよね」

よくわかりました。ところで、空力特性といえば、ゴルフボールはその最先端の製品です。今度発売された『TP5/TP5x』ボールも自信作だそうですが、ボールとクラブは相関関係にありますね。テーラーメイドの考えるクラブとボールの関係はどのようなものでしょうか?

「ボールへのご質問、ありがとうございます(笑)。まったくおっしゃるとおりで、クラブ開発はボールを実際に打ってみて、その性能を初めて確認できます。一方のボールもいろんな番手のクラブで打って、狙い通りのものができたかどうかを確認できます。そういった観点から、当社のクラブ開発の実打テストは全て『TP5/TP5x』を使っています。そうすることでクラブの性能もボールの性能もしっかり把握できるからです。ただ、ゴルフボールの開発が難しいのは、使用するクラブによってスピン性能と飛距離を最適化しなければならないことなんです」

「5層」のメリット

ロングショットはスピンを抑えて飛距離を伸ばし、ショートゲームではスピンコントロールでボールをピンに近づける。相反する性能を一つのボールに盛り込むのが難しい。

「おっしゃるとおりです。そのため『TP5/TP5x』は15年近く前から5層構造のボールを作ってきました。ご存じのように当初から5層構造ですし、テーラーメイドが出した最初の5層構造のツアーボールは、2010年発売の『FIVE TP』(グローバル名PENTA)でそこから始まっています。前作との大きな違いはコア(芯)の軟らかさでしょうか。コアがこんなに軟らかいボールはないと思いますよ。コンプレッションで1桁くらいですからね。前作のコアと新しいコアを手に持って地面に落とすと、その弾み方が全く違うのに驚きました」

コアが軟らかいと、何が違ってくるわけですか。

「ドライバーのように最も速いスピードでボールを打つと、衝撃の強さに応じてボールは変形します。変形した分だけボールの半径が小さくなり、回転する力が少なくなるのでバックスピン量が減ります。だけど変形したものを瞬時に球形に復元しないと、空気抵抗を受けて飛ばなくなる。この素早い復元を促すために、2層目に硬くて反発力に優れた素材を採用しました。

反対に、衝撃力が弱いショートアイアンは、硬い2層目が変形量を抑える効果があって、同時に摩擦係数の高いウレタンカバーによってスピン量が増加します。ボールの変形が少ないことは、それだけ回転する力が強く持続性もあるからです」

そういった性能に加えてフィーリング、要するに打感も大事ですね。

「そうなんですよ。ボールの打球感はとても大事なファクターだけに、2層目から4層目まで、硬さや層の厚さを微妙に変化させることでプレイヤーごとの最適なボールを提供できる。さらに、ボール自体のコンプレッションは、前作とほとんど変わっていないのに明らかに軟らかく感じ、初速が速くなっている。これらの性能を効率よく、しかも番手ごとに発揮させられるのは『TP5/TP5x』が5層構造だからで、3層構造のボールではできない領域です」

ゴルフボールは特許の塊と言われるほど、知財権が複雑に絡み合っている。既存の他社特許を回避するのは大変でしょう。

「大変ですが、ルールや特許でがんじがらめのボール開発も、開発の手を緩めなければ進化したボールが作れます。ドライバーショットだけではなく、アイアンショットも5ヤード飛距離が伸びるボールは魅力的ですよね。クラブとボールには強い相関関係がありますから『Qi10』ドライバーを使うなら、ボールは『TP5』シリーズがお勧めです(笑)」

松尾俊介の目

初代『ステルス』以降、毎年カーボンウッドでの新製品を発表している。しかも、確実に前作を超える機能を持ったものを出してくる。このことは、読者が想像する以上に凄いことで、テーラーメイドの開発のスピードと方向性が、常に先を目指していることの証明でもある。

なぜなら、テストを繰り返し、最終のプロダクションモデルに行くまでには、どんなに頑張っても数か月から半年はかかる。そして、それを生産計画に盛り込み、部材を調達して、ベンダーに生産計画を立ててもらい、生産開始から市場に投入するにも半年以上の時間を要する。事前に必要在庫を確保しておく必要があるからだ。それを1年のスパンで毎年やり遂げていることは、新製品が市場に出た瞬間に次のモデルが準備されていることを意味している。

もの凄い開発力と、しっかりとした開発ビジョン、さらに計画的に実行できるテーラーメイドの底力は、まさにQi(Quest Inertia)。探求することを継続する力がMAXであると感じさせる。

松尾 俊介
Shunsuke Matsuo
1949年12月23日生れ神奈川県出身。東海大学工学部航空宇宙学科卒。
実験的なゴルフ工房を主宰しながら1988年にフリーランスゴルフライターとしても活動開始。
1994年キャロウェイゴルフの日本人初の正社員として契約。キャロウェイゴルフの日本法人立ち上げに携わり、主に広報担当として20年間在籍し2015年からフリーとなる。現在は日本ゴルフジャーナリスト協会会員として執筆活動中。「日本のゴルフを面白くする」が新たな活動テーマ。ゴルフトライアスロンを立上げ、その普及に奔走中


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