2023練習場/インドア

元祖ゴルフシミュレーター『3D BIGBAN』の今と未来像

スリーディ

2023/04/16

3dbigban

大森駅から徒歩10分、環七通り沿いにスリーディのショールームがある。巨大な外看板からは一目でインドアゴルフの施設だと分かるが、一歩店内に足を踏み入れると、昭和の喫茶店にタイムスリップしたかのような空間が広がる。

同社の新井容徳社長は逸早くゴルフシミュレーターの特許を取得し世に送り出した人物だ。インドア出店ラッシュの今、韓国メーカーの機器が多数日本に上陸しているが、同社は国産ゴルフシミュレーターのメーカーとして、累計販売台数3000台以上、一時期ゴルフバーを3店舗経営するなど、インドアゴルフブームの礎を築いた。

そこで新井社長にゴルフシミュレーターの開発経緯と今後の展望を聞いた。

元祖ゴルフシミュレーター『3D BIGBAN』が生まれるまで

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「超ヘビースモーカーだから、取材中もタバコ持ってるけど許してね。でも実際はふかしてるだけで、この前も先生から肺が綺麗だって言われたよ。このフィルターも自分で作ったんだけど、欲しがるお客さんが多かったから売り出したらそれなりに好評でね。ただ銀無垢だから作るのに1本5000円もかかって利益出ないからやめちゃった(笑)」

店内には新井社長が開発した製品が沢山ありますが、昔からモノ作りに興味があったのですか?

「そうですね。きっかけは私が小学校4年生まで遡ります。当時学校で写生大会があって、多摩川まで対岸の味の素工場の煙突を描きに行ったんです。当時は朝鮮戦争の特需で日本が発展していた時代。工場の煙で空は汚かった。友人は皆、空を青く描いたのですが、私だけが空を20色くらい混ぜて表現したんです。そうしたらその絵が全国児童コンクールで1位を受賞しましてね。代々木外苑の絵画館に飾られて天皇陛下も見に来たんですよ。

その時に使っていたのが、当時高級品だったぺんてるのクレパスで、子供心に良いものを作ることは大事なのだと感じました。思い返せばその経験が今のモノ作りに生きているんだと思います」

それで大学は工学系に進む?

「はい。実は医者になろうと医科大学に合格したのですが、当時でも数千万円の費用がかかりそうだった。断念して進んだのが東海大学の電気工学部だったんです。そこで4年間工学の理論を学ぶんだけど、実際はほとんど勉強なんてしてなくて、秋葉原で部品買ってきて色々なものを作ってた(笑)」

例えば?

「真空管でステレオアンプを自作しましたよ。電圧を100Vに上げるから何回も感電してね(笑)。ヘッドホンで聴くと良い音なんだ。デジタルは0と1の繰り返しだから音が途切れるけど、アナログは連続だから最高の音なんですよ」
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当時から開発者魂を感じます。

「そうだね(笑)。大学卒業後は半導体工場に就職し、3年間勤めた後に独立し有限会社を立ち上げました。その後、日本通信機工業から依頼されて開発したガソリンスタンドのコントローラーが成功し、続いて自作コンピューターを駆使して開発したテーブルゲーム『ピンポン』が大ヒット。任天堂、タイトー、セガ、コナミに買ってもらい、日本中の喫茶店に入りました。自社でも喫茶店を30店舗経営。ビルも1棟購入し、一時は社員も127名まで増えました」

ピンチから生まれたゴルフシミュレーター

「ところが信頼していた取引先から不渡りを出されましてね。後々返金されましたが、一時期はどん底でした。加えてインベーダーゲームが流行り出したこともあり、テーブルゲームからは撤退しました。

充電期間の間にハマっていたのがゴルフでした。ボールの周辺にスタートセンサーとゴールセンサーを置き、シャープが発売した文字だけ出るパソコンにデータを飛ばし、飛距離を測って遊んでいたんです」

弾道計測器の原型ですね。

「おもちゃみたいなものですけどね。その時にゴルフシミュレーターのアイデアが思い浮かびました。『そうだ! 今度は大人のおもちゃで勝負しよう』と思ったのです。

転機は1983年。アスキーが『MSXPC』を発売したことで、8ビットで画面が出るようになった。『これならいける!』と思いましてね。そこで自分一人で完成させたのが、ゴルフシミュレーター初号機の『バーディー・メイト』でした。それが好評で300台販売。続いて2号機の『バーディー・メイト VIP』を発売しました」

2号機の価格は?

「約100万円でした。まだ飛距離、方向、高さくらいしか出せなかったのですが、『シミュレーションゴルフ』と命名し販売したところ大ヒットしましてね。ジャンボ尾崎氏にパンフレットに登場してもらい、全国に広がっていきました」

販売台数は?

「1・2号機累計で2500台以上は販売しましたね。スクールにも導入されるようになりました」

インドア練習場の走りですね。

「はい。その後、バブルが崩壊し国内需要が減少。それを受け、まだゴルフシミュレーターがなかった韓国に進出し現地にK3Dを設立。韓国コーロングループの通信会社からも60台受注しました。そして1984年、3Dプリンターの特許取得をきっかけに株式会社スリーディを設立したという経緯です」

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新井社長が開発した様々な製品

当時の年商は?
「数十億円。3階建ての自宅兼用ビルを持つまでになりましたが、バブル崩壊の影響でヒットは長続きしなかった。そこでゴルフはいったん充電期間を置き、携帯電話特有の周波数を利用したガラケーで開ける鍵穴のない鍵『オプトロック』・『セラロック』や鹿島建設と共同経営したコインパーキング『チェロ』、三井物産が販売代理店をした泡石鹸『ハッピーバブル』、エプソン情報科学専門学校の教材にもなった自動制御ロボット『ワクチン君』などが当社の主力商品になりました」

リーマン&3.11からの復活『3D BIGBAN』の誕生

「2000年代に入った頃、ゴルフシミュレーターをバーに入れたら面白いのではと思いつきましてね。今で言うゴルフバーの発想です。そこで、ショールームも兼ねて直営店『ルーベンス』を銀座、品川、目黒にオープンしました。その後、ゴルフバーブームが到来し、店舗も大いに盛り上がった。ところがリーマンショックや3.11で景気が悪くなり撤退を余儀なくされました」

波瀾万丈ですが、そんな中でも3号機を開発した。それほどまでにゴルフシミュレーターに情熱を傾ける理由は?

「何よりも私がゴルフ好きなんですよ。ゴルフはやればやるほど下手になるのに面白い。まさに生涯スポーツです。それと、2号機では性能に満足できなかった。限りなく本物に近い、超リアルなシミュレーターを作りたかったんです。それで約8年前から3号機の開発に着手。2015年に『3D BIGBAN』が誕生しました」

進化した点は?

「まずはカメラセンサーを天井に配置し床をスッキリさせたことです。カメラセンサーは動物の目の発想から2眼にし、より立体的にクラブの動きを捉えられるようにしました。特にパターの軌道は0・1度まで分かるので、正確な転がりを再現できます。それと従来のVGAではなく、フルハイビジョンにすることでコース映像を綺麗に再現しました。草木も風で動きますし、池にボールが入ると波紋も広がるんですよ」

実際にプレーしましたが、打った直後の反応速度も速いですね。

「センサーには赤外線をつけてロブショットなども正確に検知できるようにしています。実際に使ったプロからも評価されています」

『3D BIGBAN』を使ったシミュレーションゴルフ大会も開催しているようですね?

「はい。『ergolf』という商標を取り、プロアマ混合で既に5回開催。毎回約60人が参加し賞金も出しています。プロが稼げる場所を少しでも提供したいという想いもあります。リアルタイムでオンライン対戦できる機能も搭載しているので、離れていても参加できるし、世界中のユーザーと対戦できます。それと、『(一社)世界スーパーシミュレーションプロゴルフ協会』(WSSPGA)を立ち上げ、プロの資格認定証を発行し、シミュレーションゴルフという敷居の低い所からゴルフを普及する活動も行っています」

『3D BIGBAN』の販売状況は?

「昨年から特に好調に販売しており、累計で300台ほど。設置施設は300か所に迫る勢いです。当社の製品は個人宅が7割で、タカラレーベンなどのマンションの共用部にも採用されています。今年だけでも100台の設置予定があり、既に6月まで予定が埋まっています」

今後の展望を聞かせて下さい。

「機器は今後もバージョンアップし、よりリアルに近づけたい。3DメガネやVRを装着しながらプレーするタイプも作りましたが、迫力はあるもののメタバースの域を超えられなかった。やっぱりゴルフは裸眼が一番良い。今後は4Kや8K対応にすることと、理想は人工芝の下を本物の土にするとか、砂を敷いてバンカーショットができるようにするとか、バーチャルだけど本物に近い環境を追求していきたい」

今後のインドアブームをどう見ていますか?

「今後もメタバースが発展してくると、若年層の間ではゴルフ場よりもシミュレーションゴルフが主流になると見ています。韓国のメーカーが多数参入していますが、当社はゴルフシミュレーターのパイオニア、国産メーカーとしてのプライドがある。とは言え競合が宣伝してくれることでシミュレーションゴルフが認知されている側面もあるので、その追い風に乗って当面の目標を販売台数1万台に設定しています。まずは3月のゴルフフェアに出展。業界関係者やゴルファーに訴求します」

『3D BIGBAN』を徹底解剖

2015年の発売以来、ロングセールスを続けるスリーディの『3D BIGBAN』。ここではその特徴を徹底解剖する。

■解像度
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FHDフルハイビジョン(1920×1080)で、スクリーンに投影した時の文字が見やすい。またコース映像も草木の動きや水の波紋など細部まで表現。

■反応スピード
50ミリ秒で、弾道を瞬時に再現。

■コース地面データ
従来型の1㎡に比べ、10㎠と精度を上げたことで、カップインギリギリのショットも検知。

■センサー・精度

最先端ステレオビジョン方式・光学2眼カメラセンサー搭載で瞬時に正確な弾道を再現。パターは0・1度の差を捉える。設置場所などの柔軟なアレンジとアフターサポートが可能。

■プロジェクター

フルハイビジョン対応(1920×1080以上)の短焦点プロジェクター。

■スクリーン
耐熱構造特殊3枚スクリーン。サイズはブースのサイズにより異なる。オプションで消音スクリーンへの変更も可能。

■人工芝・ティー
グリーン・フェアウェイ用人工芝・ラフ用人工芝、ゴム製ティー付属。

■ゲームモード
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「ストロークモード」:
1人から複数人でラウンドできる通常モード。コースは、オーガスタ、霞ヶ関カンツリー、太平洋クラブなど、世界の名門コースを132か所搭載。要望に応じて別料金でコースの追加も可能。

「ドライビングレンジ」:
ワンショット形式の練習モード。ウッドからパターまで対応しており、1打ごとに2つの角度からプレイヤーのスイング動画を再生。さらに、インパクトの瞬間を実際の映像で再現。インパクト時の軌道を詳細に確認可能。
【計測データ項目】
キャリー飛距離、トータル飛距離、ボールスピード、ヘッドスピード、打出し角、方位角、バックスピン量、サイドスピン量、左右ブレ、最高到達点(高さ)

「ニアピンゲーム」:
コース上の任意の場所から自由に練習できるモード。ドライバーからパターまで可能。

「ドラコンゲーム」:
コースからドライバーショットの飛距離を競うモード。

■スマートフォン専用アプリ
Androidスマホ、iPhoneそれぞれに対応した「3D Bigban」アプリにラウンド記録やスイング映像を転送し、いつでも確認可能。

■価格
販売:380万円(税込418万円) ※完成迄の工事費込み
レンタル:7万円/月~

■アフターサポート
1年目:無料
2年目以降:1万5000円/月
年契約は12万円(1万円×12か月)

こんなにある! 『3D BIGBAN』導入インドアゴルフレンジ

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今期だけで既に100台以上の販売を見込む『3D BIGBAN』。1月も元旦にオープンした「シモキタGOLF」(世田谷区)を皮切りに、「club green」(京都府)の全7打席、「LAHAGOLF24」(神奈川県)の2店舗(鶴間店:3打席、武蔵小杉店:9打席)にも同製品が導入。個人宅7割に対して、インドアは3割ながら、着実に導入店舗数を増やしている。同社は海外にも販売代理店を持っており、特にシミュレーションゴルフブームの韓国では複数台の需要があるという。自動車ディーラーのショールームやマンション共用部での採用も多く、他にも「北浦和ゴルフ」(さいたま市)全7打席、「モリシゲ・インドア・ゴルフクラブ」(横浜市)などがある。

【動画】『3D BIGBAN』を現役ツアープロが体験&解説


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