2026クラブ・ボール

地クラブの神髄 TK2

TK2

2026/04/01

不易流行―。
変わらない本質を守りながら、常に新しい変化を取り入れること。
それが鍛造の老舗である共栄ゴルフ工業からスピンアウトしたブランドTK2の在り様。
その職人技にAIを融合させ、そして、もの創りが一気呵成に前進する。
その神髄に迫る。

神髄一 AIとの格闘、人知を超える

2026年4月に創業68年を迎える共栄ゴルフ工業。国産アイアンヘッド発祥の地である兵庫県市川町に居を構える鍛造の老舗。三代目である坂本敬祐は、国内外からの依頼でクラブ創りに奔走する。

「中国からヘッド製造依頼が舞い込んだ。中国人ゴルファーの興味を擽るヘッドを創ってほしい」―。中国で注目を浴びている彫刻的形状の日本ブランドのヘッドがある。しかし、その模倣では坂本のもの創りでもなく、そして共栄のもの創りでもない。

「少人数の零細企業、それも製造所では発想にも限界がある。しかし、世の中の流れは、日進月歩。瞬く間に時は流れていく」その課題解決に試みたのがAIの活用だ。

「まず『アイアン』を学習させることから始め、中国では生命や境界を越える存在である龍や蛇の文様を教え込んだ」AIが辿り着いたのが、単に蛇が立ち上がり警戒している姿だった。不足していたのは、「アイアン」の基本的な形状の知識。つまり、「アイアン」には打面があり、ネックがあり、背面の存在。それに加え、これまで共栄が創ったアイアンを教え込んだ。

「少しずつ少しずつ、アイアンになっていく。その様、そして歩みは人知を超えていると感じた」龍、蛇だけではない。アイアンとは異なる左右対称の形状からもAIにアイアンを想起させた。「自動車の前面部分を読み込ませる」AIが考え出した文様には、バックフェースに自動車のライトやロゴ、車種名までもデザインされていた。

「不要な部分を消す」その作業を何度も何度も繰り返す。得たのは、形状を編み出す尋常ならぬ速さとアイアンに求められる機能性を度外視したデザイン。「頭の中のイメージをより速く形にする。人間が考えるより奇想天外なデザインを編み出す。使い方次第で化ける可能性がある」

大手クラブメーカーであれば、工業デザイナーを起用し、最新技術を駆使してクラブの性能まで可視化する。加えて、新たな素材を生み出し、新たな技術革新によって不可能を可能にする。しかし、およそ70年にわたり古から伝えられてきた技を磨いてきた職人集団は、その対極にある。その対極を相容れようとする時、難儀が表れる。それがAIと機械加工と研磨の三者三様の何たるか。新たな宿題が姿を見せる。

神髄二 AIと技の融合、相容れない溝

奇抜なデザインを生み出すAI。しかしながら、アイアンとして具現化するには、障壁がある。ゴルフクラブであると同時に、アイアンは工業製品。特に鍛造を前提とした共栄のもの造りでは、複雑な形状を成すために機械加工(マシニング)で補填するしか手立てはない。ドリルや刃物が高速で回転して、複雑なバックフェースを削って形を造る。

「しかし、機械加工では角がとがり過ぎて、最終的に研磨が必要となる。ただ、研磨は手作業。磨くことができない部分が、その形状が複雑がゆえに、表に現れる」研磨師がいう「最後のひと舐め」。それが削り跡を滑らかにする。ところが、AIに、鍛造品の製造工程、および製造技術の何たるかを教えても、「最後のひと舐め」は想定されていない。

ゆえに、「現時点では、AIの発想は人間の英知を超えているが、量産という意味で、AIの発想から取り除かなければならない部分も存在する」

元来、昨今の鍛造品はマシニングで複雑な形状を造り上げるヘッドが多い。しかし、複雑であればあるほど、マシニングは長時間にわたり作業が施されるから、結果、製造コストが嵩む。「最後のひと舐め」を含め、マシニング加工の可否を人が判断せざるを得ない。「研磨、マシニングを考慮すると、よりシンプルな構造が望まれる」ゆえにAIには、「より簡潔に、かつ、具体的な指示が必要とされる」

もうひとつ、形状の複雑化が職人を悩ませる工程がある。それがバックフェースの装飾である色入れだ。アイアンのバックフェースはキャディバッグから顔を出し、ブランドやモデルを一目でわからせる役割もある。「ところが、形状が複雑すぎると手作業による色入れは時間がかかりすぎ、製造原価が膨れ上がる」

大手のクラブ製造工場でなければ、この色入れの専用機器の導入は投資が難しい。ゆえに、多くのパーツメーカーが依頼する製造工場では、手作業による色入れが圧倒的に多い。それも職人技の類ですらある。それでも坂本は語気を強める。「まだまだAIを活用できる余地はある。道の途中」―。

神髄三 左右対称と非対称、重心距離40mmの理想

その理想とは、ワンピースの鍛造アイアンでありながら、ヘッドの重心距離が40mmというもの。ヘッド長75〜80mmほどの鍛造アイアンヘッドの中で、重心距離40mmというのは例がない。それを実現するにはヘッドの重心位置に大きく影響するバックフェースのデザインが非対称にならざるを得ない。

「世にはバックフェースのデザインが左右対称のアイアンもあれば、左右非対称のアイアンもある。これまでの経験上、バックフェースの造形において一般のアマチュアゴルファーが好むのは、左右対称。しかし、共栄のもの造りは、左右非対称」

AIにアイアンの何たるかを教え込んだ当初、AIがはじき出したデザインは左右対称が多かった。AI自体が掻き集める情報の多くは最新のアイアン。ゆえに、左右対称が多かったのだ。「バックフェースのデザインが非対称になれば、重心は動かしやすい」

ゴルファーは皆、ドライバーの飛距離に一喜一憂する。そのドライバーの重心距離は近年、40mmを超えているヘッドが多く、460cm3時代の高慣性モーメントヘッドは、それ以上になる。「そのため、一部の鍛造アイアンではトゥ側にタングステンなど高比重金属を埋め込むケースもある」

そして何よりも坂本が語気を強めることがある。「ドライバーは年々進化して飛距離も伸び、そして重心距離も伸びた。しかし、鍛造品に著しい進化は見られない」坂本は、この理想についてもAIに問うた。「軟鉄鍛造アイアンで重心距離40mm以上のヘッドのデザインを出してくれ」

人知を超える存在に頼ることも、ひとつの経験。「提案されたデザインは、売り物になるか、ならないか。そういう文様だった」―。理想と現実―。外野席から見れば、坂本は打ちのめされたかのように見えもする。しかし、「AIの範疇かもしれないが、それが分かっただけでも進歩」

神髄四 商いが変わる、糸口の在り処

AIは何かしら糸口を見出すツールでもある。「ひとつは打感の可視化と打感を選べる販売手法。もうひとつはアイアンの番手にこだわらない用途別のアイアンヘッド」坂本は、この二点に心を奪われたという。

「打感の数値化は振動周波数を測るというもので、それは初期衝撃の立ち上がりの数値化という意味のようです。職人の集団ということもあって、このような発想はなかった」大手クラブメーカー以外で、打感の可視化、数値化をパーツメーカーが行うことは稀だ。「研究機関や大学などの協力を経て、打感の可視化に挑む」

一方で番手にこだわらない用途別のヘッド。「飛距離や番手にこだわる必要がない、というアイデアが出てきたことに驚いた」クラブ製造に長年携わっていれば、知らず知らずのうちに、業界の常識こそが摩訶不思議なのだ。まさに井の中の蛙であることをAIが気付かせてくれたということだろう。

「例えば、打感が可視化できた場合、打感を選べるヘッドをどのように創っていくのか。番手にこだわらず、用途別のアイアンを開発する際に、どのような鍛造、どのような研磨を施していくのか。新たな宿題を貰ったということになる」

商いを変えるには、商品が変わる。その土台にある鍛造、そして研磨も変わらざるを得ない。職人集団の意識改革、および新たな製法の開発が求められるのは当然といえるだろう。AIと職人技の融合、そして糸口を求める共栄ゴルフの着眼そのものが、単なる開発時間の短縮化を凌駕する。共栄ゴルフ工業の新たな挑戦がいまから始まる。


TK2

ページのトップへ