2023練習場/インドア

ハードとソフトの二刀流 練習場を支える機器メーカーの業界活性化策

日本シー・エー・ディー株式会社

2023/04/16

練習場は装置産業というのは一昔前の話。「脱・装置産業」「練習場改革」を掲げ、新しい試みを行うオーナーが増えてきた。

1977年創業の日本シー・エー・ディーはそんな練習場をハードとソフトの両面から支える練習場機器メーカーだ。創業者で工学博士を持つ横山佳雄会長とプログラマーの小俣光之社長を筆頭に、IT製品やソフトウェア開発を得意とする精鋭20名が在籍。練習場の多様なニーズを次々と解決し、同社製品の導入練習場は全国100か所以上に及ぶ。

また「練習場機器事業」と併せて、「IT製品・ソフトウェア開発事業」「プリント基板事業」の3つの柱を持っている点も同社の強みだ。そこで横山佳雄会長と小俣光之社長にこれまでの練習場機器の開発経緯や今後の展望・未来像を聞いた。

取材で練習場に行くと御社の機器をよく見かけます。

横山 ありがとうございます。

小俣 ほんの7年前くらいは練習場からの評判も良くなかったんですよ(笑)。「シー・エー・ディーは機器は良いけど、何かあった時くらいしか来ない」なんて言われましてね。少しずつ体制を変えていきました。

小俣社長のカード入れには各練習場のICカードがぎっしり入っている。各地の練習場を行脚した証ですね。その辺は追々聞くとして、まずは練習場機器の事業を始めたきっかけを教えてください。

横山 分かりました。当社は元々、開発請負会社だったんです。当時はマイクロコンピューターの黎明期で様々なニーズがありましてね。例えば川の濁度計のデータ管理など、県庁の仕事も請け負っていました。

そんな中で1993年ですかね、ゴルフ練習場機器を作っている会社から、自動ティーアップ機の操作部(プリペイドカードを入れてティーの高さ調整、球数設定をする部分)の製造依頼がありましてね。すぐに作って100台納めたんです。続いて200台発注があって、いざ納品しようと思った矢先にその会社が倒産してしまいましてね。

損失はいくらだったんですか?

横山 2000万~3000万円ほどでしょうか。在庫の山の前で途方にくれました。他製品への流用も考えたけど、ゴルフ練習場の打席の操作部は、それ用に使いやすいように作ってあるからほかへの使い道がないんですよ。

小俣 確かバッティングセンターへの流用を試みたことはありましたよね。会長に連れていかれたのを覚えていますよ。

横山 そうだったかね。とにかく何とかしないといけないと思って試しに機械側を見てみたら、そこまで複雑な構造じゃなかったんですね。当社はそれまで原油の触媒活性システムなどのいわゆるメカトロもやっていたんです。だからこの程度の構造なら自分達でも作れるかなと思いましてね。

外側の機械も作っちゃおうという発想の転換がすごいですね。

横山 受注ソフトの開発で淡々と経営はできていたので、その収益である程度補填できたから助かりました。でも今思い返しても辛かったですね。いずれにしてもそんな経緯で練習場機器の事業を始めることになったんです。

小俣 初めて当社製品が入ったのが愛知県半田市の練習場でした。ただ新設の練習場だったので、ボールタンクから各打席に送球する構造まで全て一式で当社が作ることになりましてね。こうして当社の練習場システム『SUPER SHOT SYSTEM』(スーパーショットシステム)が誕生したんですよ。

多彩な打席操作部


横山 少しずつ改良を重ねていって、ティーアップユニットは11代目くらいになりますかね。

開発の苦労話とかありますか?

横山 開発に関しては特にないんですがね‥‥、

小俣 現場での苦労話はありましたよね(笑)。

横山 あったね(笑)。

どういうことですか?

小俣 当時はまだエアー(空気)でボールを各打席に送り出していたんですね。エアー式は一般的には機械室のボールピットから、打席通路のボールタンク(販売機)まで1対1でボールを送り出すのが普通なんです。ところが当社のは、機械室から1対多で直接各打席に送り出す構造だった。一見便利そうに見えますが、空気は漏れますから、端の打席になるほど風が弱くなっちゃって全然送球できなかったんです。

横山 そんな状態だったから営業にも支障をきたすので、当社が2000万円を負担して他社のスクリューコンベアに入れ替えをしたんです。

またまたすごい損失ですね。

横山 当社の責任ですからね。ただこの時ばかりは倒産するかと思いましたよ。社員総出で朝から晩まで現場作業してね‥‥。

小俣 直るまでずっと社員皆で打席にボールを運んでましたよね。私も3日間徹夜で、当時の最長記録でしたよ(笑)。

『チェイン式コンベア』の誕生


横山 この時にスクリューコンベアを見て、構造的に無理があると思ったんです。スクリューコンベアとはホースの中にスクリュー状に捻ったバネを入れ、それを回転させてボールを打席に送る構造なのですが、例えば1フロアに50打席あったとしたら、最長で100m以上先までスクリューの回転を伝えなければいけない。どう考えても無理があると思ったんです。

それともう一つ問題なのは、当時主流のベルトコンベアです。ベルトコンベアは真っすぐにしか運べない。でも練習場の打席を上から見ると扇形になっているところもあるから、これも矛盾してるんです。

小俣 だからそういう練習場は曲がり角で1回別のベルトコンベアにボールを乗せ換える作業が必要になるから送球効率が悪いんですね。

それとベルトコンベアは壁の高い所に這わせるように設置しているので、通路のボールタンクにホースで落下させる時に音が響くんです。お客さんはせっかく気持ち良く練習してるのに邪魔になっちゃう。

確かにたまに「ボコボコ」っていうボールの音が聞こえる練習場がありますね。

小俣 そうそうそれです。あとボールを落下させる関係上コンベアを壁側に傾斜させないといけないから、ボールを壁にこすりつけながら運んでいる状態になる。当然、摩擦で送球速度は落ちるし、ボールの劣化も進みます。ホースも剝き出しで見栄えもよくありませんし、仮に壁の中に隠したとしてもメンテナンスが大変なんです。

横山 ですから何とか代わりになるような構造を作れないかと考えていたんですが、実は私は以前に富士写真フイルム(富士フィルム)で、170mのチェイン(チェーン)の設計・組み立て・メンテナンスをする部署で働いていたことがありましてね。チェインが100m以上先まで力を伝えるのに適していることを思い出し、「これだ!」と閃いたんですよ。

小俣 愛知県の練習場での失敗から1年くらい経った頃でしたよね。ある日会長から呼ばれて「小俣君、今度こんなの作ったぞ」って。私からしたら「まだ懲りずにやってたんですか!」って思いましたよ(笑)。

横山 そうだね(笑)。それが『チェイン式コンベア』の始まりですね。チェインレールも板金からスタートしてアルミに変えたり改良を重ねましてね。

『チェイン式』のメリットは?

小俣 第一にボールをピンで押しながら確実に送るので送球速度が格段に上がることと、レールを床下に収納できるのでホースやボールタンクがなくなり打席周りがスッキリするんですね。それとボールの落下音などもなくなり静かに練習できます。

打席床下ボールタンクと機械室ボールピットの改革

横山 それと各打席の床下にあるボールタンクも工夫していましてね。従来品だとボール同士が重なって詰まることが多かったんです。そこでボールを綺麗に整列させる構造にしたんですよ。

小俣 この構造のおかげで床下に配置できるんですよ。ボールが詰まっていたらそんなことできませんからね。

横山 当初はボールタンクに200球入るようにしていたのですが、『チェイン式』で送球速度が増したので100球あれば十分ということが分かりましてね、タンクの大きさを小さくして工事の作業時間も大幅に改善されました。

練習場としてもボールの購入数が減るからメリットがありますね。ところで『チェイン式コンベア』の導入練習場はいくつでしょうか?

小俣 群馬県高崎市の練習場を皮切りに、トーキョージャンボゴルフセンターやハンズゴルフクラブなど60以上の練習場で導入されています。ロッテ葛西ゴルフも3階打席だけ先に導入、利便性を評価いただき2階も導入されました。

横山 最後に着手したのは機械室の『チェイン式縦コンベア』とボールピットです。とにかくボールが詰まらずに一定速で確実に出る構造を心がけました。

小俣 古いボールタンクを使っている練習場だと、ボールが詰まってうまく排出されずに機械室の床一面ボールだらけということもよくあるんです。そうなると片づけが大変なことになっちゃう。

その辺は練習場経営者にしか分からない苦労ですね。具体的にはどの辺を工夫しているのでしょう?

横山 ボールを上方に運ぶ縦コンベアの受け皿が特徴でしてね。洗浄後のボールの水切れが良いような構造になっているんですよ。しかもボール同士を接地させることなく3〜8個ずつ上方に運べるんですね。

鍬の先みたいに隙間が空いているので水切れが良さそうです。

横山 はい。そして縦コンベアで機械室の2階に運ばれたボールを確実に掻き出して打席やピットに送らないといけない。そこでピアノ線で掻き出す構造にしています。

小俣 あともう一つは「羽根つきシューター」ですね。ピットに溜まった10万球近いボールをピットの最下部から1球ずつ確実に出していく構造です。10万球のボールの重みが加わるわけですから、1球ずつ排出するのは結構難しいんです。

横山 ボールが一定間隔で排出されないと、その先のコンベアで処理しきれずに溢れるなどの問題が起きます。さらに、打席近くにあるボールタンクも問題が起きやすい構造です。ボールが積み上げられるように格納されているので詰まりやすいですし、ボールタンクからティーアップユニットへのホースで詰まってしまうと掃除機で吸い出さないといけなくて一苦労です。

小俣 人のいない地方の練習場だとお客さんに手伝ってもらったりしないといけない(笑)。ひどい時は通路にボールが散乱しちゃうことがあって、仕方ないからお客さんに無料で打ってもらったり(笑)。

苦労が目に浮かびます‥‥。

横山 あとね、当社の縦コンベアや機械室ボールピットは組み立て式なんですよ。従来だと機械室の屋根を取り付ける前にピットを入れないといけないから工事期間がタイトだったし、クレーンで釣り上げて設置するから大変だった。でも組み立て式にしたことで、建物ができ上がった後からでも設置できるようになったんです。

とにかくボールを詰まらずに速く循環させ、かつ打席周りをスッキリ見せることに徹底的にこだわっていることが分かりました。それにしても横山 会長はこれらの構造をどうやって思いつくんですか?

横山 そうですね。ずっと悩むんですけど、ある日寝て起きたら閃くんですよね(笑)。

小俣 私からしたらある日突然構造が変わってるから驚きですよ(笑)。

横山 実は私の親父も工作好きで、自宅に作業場があって一通りの工具が揃っていたんですよ。その影響で私も小学校4年生くらいの時から色々作ってた。5寸釘からナイフを作ったり、ゴムで水中鉄砲を作って近くの海で魚を捕ったりね。昔から頭の中で考えてモノを作るのが大好きだったから悩んで悩み抜いていると、いつか朝起きてポッと思い浮かぶんですね(笑)。

子供の頃にモノ作りのルーツがあったんですね。

横山 そうですね。でも今は3D CAD(キャド)が進化しているから頭の中のイメージを専門の社員に伝えるだけで即商品化できるから便利になりました。30年前は方眼紙に鉛筆を舐め舐めしながら図面を引いたものですがね。

小俣 でも大学では化学系の学科を専攻したのは何故なんですか?

横山 それはね、大学1年の時、酒飲んで、麻雀やパチンコばっかりやって遊び過ぎちゃってね(笑)。東京工業大学は2年になる時に学科を決めるんだけど、成績悪かったから行きたい学科に行けなかった。応用化学に拾ってもらったんですよ(笑)。

ソフトと保守体制の確立


メカが完成していよいよソフトの段階に行くわけですね?

小俣 実は当時、私はIT関連の部署にいたのでゴルフ事業のソフトウェア開発は会長とその直属の1名が担当していました。当初はプリペイドカードで、ただ球を打てれば良いという形だったので何とかなっていたんです。

ところが時代は変化し、リライトカードでチャージやポイント付加などが可能になり、やがてICカードに進化して顧客動向が分析できるようになっていった。その中で練習場の要求も多様化し、男女や時間による球単価の変更、ボール貸し・打ち放題の選択など、それらを簡単に設定できるソフトが求められるようになってきた。

そういった要求に合わせてソフト面も改良を加えていった?

小俣 はい。そんな時、千葉のある練習場の要望に当時のソフトでは対応し切れなくなって現場で応援していたITチームの社員から相談を受けましてね。会長に内緒で彼らと一緒に新しいソフトの開発を進めていったんです。

内緒で作ったんですね。

小俣 会長はソフトは専門じゃないから、一からの開発は反対されることは分かっていたので。でき上がっていれば文句は言えないでしょ?

あとから聞いてどう思いました?

横山 そうか、分かったと‥‥。

ところで小俣社長を社長に任命した決め手は何だったのですか?

横山 それはね、彼にしか社長はできないと思いましたから。

小俣 当社は簡単に言うと、メカ、ソフト、プリント基板という3つの事業が存在するのですが、私が担当していたソフトの事業を1から自力で黒字化したのが大きかったのかなと思います。

横山 そうだね。

なるほど。それで小俣社長はいつからゴルフ事業の方を見るのでしょうか?

小俣 7年前くらいですかね。福島県にある荒川ゴルフクラブさんと保守のことで揉めましてね。真夏に3回謝りに行って、「小俣さんが窓口をやるなら付き合いを続けるよ」と言ってもらった。だからゴルフの窓口をやらざるを得なくなっちゃったんです(笑)。その後も当社製品が導入されている練習場を回ると、色々な所でお叱りを受けましてね。会長は開発から経営まで一人で全部やってたからお客さんの所に顔を出せていなかった。練習場側としても不満が溜まっていたんでしょうね。その現状を見て保守体制を整備する必要性を感じたんです。IT分野では責任分解点の明確化や保守契約の仕組み作りは当たり前のことなので、ゴルフ事業にも応用しようと。

ゴルフ事業は何名のチームなんですか?

小俣 私のほかに営業1名、ソフト9名、メカ2名、設計・図面・購買3名の体制でやっています。ソフトは遠隔でもサポートできますが、やはり直接足を運ぶとその練習場がどんな課題を抱えていて、今後どういうことをやっていきたいのかが分かるんですね。情報交換もできるし、直接話すと細かい機器の不調などもヒアリングできて事前に対策ができる。未だにメールでのやり取りが苦手なオーナーもいるからなおさら顔を出す必要があると思っています。

横山 私としても今の仕組みができたことで安心感がありますね。

小俣 ここ7年で「会長出てこい」はなくなりましたよね(笑)。

業者同士も横の連携を


今後の構想を教えてください。

横山 どうしようかね。

小俣 会長はニーズがあれば何でも実現できてしまうので、現場でそのニーズを吸い上げるのが私の役目だと思っています。

なるほど。最近のニーズとして多いのは?

小俣 昨年から増えてきたのはインドアからの要望ですね。インドア専用の自動ティーアップ機やhacomonoのシステムと連携した打席の自動制御などがそれです。当社としてはインドア向けにも技術力があることを示すことができました。

それと最近ではトラックマンレンジとシステム連携してボールのネット飛び出し対策をしています。ネットを越えてしまった打席のティーアップを自動制御する仕組みです。

それはすごいですね。最近増えているトップトレーサー・レンジでも可能なのでしょうか?

小俣 もちろん仕組みとして可能です。それと最近注力しているのは分析システムで、保守契約の中に含む形で提供しています。季節や天候、時間帯など、様々な要因による顧客動向が分かりますので、それを活用して施策を打ちたいと思っている練習場からは分析方法の相談を受けることもあります。

分析を使った練習場コンサルを事業化することもできるのでは?

小俣 いえいえ。当社はあくまでも保守の一環としてやっています。しっかりとしたシステムを提供することが重要で、分析から見える情報提供は練習場の収益が上がるお手伝い程度にやっていることですから。

横山 分析システムは顧客動向だけじゃなく、機械の稼動状況のデータも取っていますから、例えば打席の故障具合、チェインの不具合、ゴムティーの痛みなどもデータから予測することができるんです。

そんなこともできるんですね。最後に御社の練習場事業の未来像を教えて下さい?

小俣 当社が進めたいのは業者間連携なんですね。他社のシステムを入れている練習場から、顧客分析だけ当社にやってほしいとか、決済方法を追加してほしいなどという要望が増えているんです。ところがそれをよく思わない業者は多い。「何でうちのシステムとお宅のシステムを連携させなきゃいけないんだ」ということになっちゃう。

それはどうしてですか?

小俣 やはり自分の所で客(練習場)を囲い込みたいという考えがあるんでしょう。でもこれは勿体ないことで、業者も横の連携を強くして得意な分野を持ち寄れば、もっと練習場やゴルフ業界が活性化すると思うんです。

最近では練習場同士も横の繋がりを強化する動きがあります。敵という考え方ではなく、業者間も連携を強化する時代に入っている。

小俣 そうですね。願わくば練習場側からもこれを呼びかけてもらいたい。練習場が活性化するためなら当社はいくらでも業者間連携をするつもりでいますから。

いずれにしても御社はメカの横山会長、ソフトの小俣社長と二刀流で対応できるのが強みです。

横山 お陰様で良い状況ですね。これからも頑張っていきますよ。

小俣 ソフトに関しては優秀なメンバーが揃っているので私がコーディングしなくても全く問題ありません。私はニーズの吸い出しと会社間のお付き合いを深めるのが仕事ですね。システムや分析が進化していく中で、今後は練習場がそれをどう使うのかがテーマだと思うんですね。ですから当社はそんな練習場の様々な要望に寄り添える企業でいたいですね。


日本シー・エー・ディー株式会社

  • 日本シー・エー・ディー株式会社
  • お問い合わせ:03-3232-4111
  • URL:https://www.ncad.co.jp

ページのトップへ